よいセックスのあとには、いつも青空が広がっている。たとえ曇天でも、頭上は晴れる。すべてをゆるすことができ、何ごともすでにゆるされている。一片の疑いなく信頼があり、世界は初めから良きものだった。信頼し身をゆだねている。自分に、相手に、ふたりをくるむ柔らかい布団に。
何がよいのか、ほかの誰にもわからない。隔てがないこと、愛と憎しみが溶け合ってひとつなること、過去も未来もなくこの存在がすべてであること、ふたりにしかわからない。そこは世の流れとすっかり違った場所だから。
光がさして、すべてのものが煌めいている。霧が晴れ美しきものは美しく、そうでないものも愛おしくなる。遠くの山が近くに見え、近くの物音が遠くにしりぞく。そして、やわらかな息遣いがはっきりと聞こえる。
宇宙の波打ち際で、生と死の間を行ったり来たりした。こちらの現実に目覚めたのは、その波にすくい取られ、ここにそっと置かれたから。木の葉にくるまれ芋虫のように交合った。そうしていつまでもお互いを抱きとめている。何昼夜でも、ひとつの蛹になるまで。
蛹は静かにほどけて蝶になる。鳥になる。花と開き、風に乗り、種となって広い野辺に散らばる。何にでもなれる。雲になり、雨となって降り注ぎ、大地を穿って流れ、地の底に沈み、やがて大洋の底から湧き出でる。波の煌めきに注ぐ太陽となり、光を横切る霧となり、霧は肩にやさしく留まり包む。
ぼくらはすべてのわたしたちなのだ、少なくとも次のいさかいまでは。日常の感情のわだかまりが人をもう一度にんげんの姿に引き戻す。あのオブラートのような静寂は幻想だったのか? それとも、すべてそれらの〈わたしたち〉が再び秩序の部屋へと戻され、名札をつけて並べられたその陳列棚が幻想なのか?
よいセックスのあとには、いつも青空が広がっている。そこには雲ひとつない。ぼくらはまっさらで、疑うことと信じることが生まれる前の原始スープの中に浮かんでいる。ぼくらはひとつで、世界は初めから良きものだった。
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一心不乱にsexに埋没したいです。